高齢者除雪支援の研究背景

 2009年の教員宿舎の高齢化に伴い、宿舎の草刈りと、共助除雪が大変になり、何とか楽に成る方法を検討している。草刈りに関しては、外部に頼むのが一番楽。ということで、専門業者に頼っている。除雪に関しては、費用が大きいため、中々解決策が見つからない。2009~2012年には、水道水を散布しても融けない。灯油ストーブで熱しても融けない。消雪って何て大変な事なんだろうと思った。では、押し固めて灯篭として駐車場の隅に置いておこうと、2012年の冬に基礎研究として除雪の圧密成形を実施した(2014年3月 高専教育, Vol. 37)。本校の卒業生が勤める地元企業から、富山県の山間部の限界集落でも同じような課題を抱えているため、高齢者による人手排雪支援装置を製作してくれないか。というような応用研究の依頼があった。それを受け、2013年の春より、科学的知見を基にした、「大量の除雪を高効率に圧密・排雪搬送する装置の創生を目標」に、除雪の高速圧密成形特性の調査を実施している。 


地下水融雪は一番楽

 除雪方法はいろいろあるが、道路に設置されている消雪・融雪装置は、最も消雪・除雪効果がある事が分かっている。庭や家の周りに融雪装置を敷設可能であれば設置することをお勧めする。消雪・融雪装置は、1つの融雪装置には4つの穴が開いており、融雪装置が等間隔で数十キロと並んでいる。主にバス路線に沿った利用頻度の高い路線に40年以上も前に敷設されているようである。富山県内の融雪装置の実測値として、1穴から1~2リットル/分の割合で地下水が吐出されている。夜間12時間の運転で1穴から、5, 760リットルの地下水を吐出している。日中4時間の使用に制限するなど地域によって融雪装置の利用方法が異なるが、1日あたり1穴から吐出される融雪水量は、一般家庭が1カ月利用する風呂水以上の莫大な量である。が、意外と専門家以外の市民には知られていない。冬季における富山市の地下水の温度は実測値でおよそ6.5~15℃のため、融雪効率は悪いものの、大量の地下水を用いることで融雪を行っている。大量の水が排水されるため、定期的な巡視と管理が無ければ、直ぐに交差点が大きな水溜りになってしまう。富山県内では、主幹道路や商業施設などで融雪装置が制限なく利用されているが、その影響として、海岸部の生活居住区における大幅な地盤沈下が問題となっていることが専門家の間で指摘されているが、これも市民には知られていない。今後道路インフラへの影響が大きく出てくるようであれば、取水制限が設けられることになる。因みに県外では、短時間での莫大な取水利用による井戸枯れ、上水道の乱用による水道停止などが問題になっている。


高齢者除雪支援研究が社会に与えるインパクト

 降雪地域の冬季のGDPは15兆円で、除雪費用は2,000億円程度です。そのうち200~600億円は除雪を運ぶ排雪という作業に使用されています。高齢者問題に関係なく除雪に関する事業や研究は大事なことです。

 田中角栄が「克雪宣言」を実施する前まで、冬季の降雪地帯の域内総生産(GRP)は、ほぼ0円となっており、降雪地域の若者は暖かい地域に短期の集団出稼ぎをしていた時代がありました。

 克雪宣言から公的除雪インフラの整備が進み、それに伴い降雪地域でも冬季の「ものづくり産業」などが新たに創出され、現在では、年間15兆円(全国の降雪地域)のGRPが確保されている状況です(富山県は4.5兆の内、冬季の四半期で1兆円程度の冬季GRPになる)。この冬季四半期のGRPは、春・夏・秋と同等の額に維持されており、降雪による経済に的な打撃は殆どない状況になっています。降雪地帯の日本国内の公的除雪費用は、年間1,000~2,000億程度が使用されている。「克雪宣言」は、GRPの1%程度で生活・経済が維持できる国の公共事業として大成功の例の一つです。


前例のない後期高齢社会の到来

 研究を開始した2009-2010年から急速に高齢者の除雪時の自宅遭難数が増えている。そのころ元気な60代も今では70代になった。研究当初は60代の初期高齢者から、「除雪支援など必要ない。」と言われていたのだが、10年経って70代になり、多くは小型のエンジン除雪機を購入しているようだ。また、以前の元気は無い。研究をしているからわかるが、80代になると家に引き籠って外に出てこない。正確に言うと出てこれない。体力不足による自宅遭難の発生である。

  残念な事に、人口動態統計と先行地域の状況調査の結果から、2030年頃には降雪で家に引き籠る後期高齢者が大幅に増えている。これは予言でもなんでもなく、統計処理の結果であって、必ずとは言わないが、大筋統計データに従って被害拡大が予想される。(既に消滅しましたが、私の大学の専攻だった「生産システム」、「機械工学科2類」という学科・学問分野で習います。現代でいうところの「データ・サイエンス」という科目になります。)

 積雪被害状況を詳細に公表している自治体は意外と少ない。先行している後期高齢者地域の積雪被害状況では、2018年の福井豪雪では、地方自治体の一般職員が高齢の自宅遭難者を救助している。2030年頃の後期高齢社会において、広い地域で除雪弱者が発生すれば、広域の社会インフラも寸断されることが予想される。継続研究の観測の結果、その兆候は既に始まっている。

 ワーストケースなのは、2022年の北海道岩見沢市の報告だろう。総世帯35476戸の世帯の内2486戸の世帯を42名の市職員が2日かけて安否確認巡回を実施している。救助の必要な世帯にはその後市職員総出で除排雪を実施している。1人で59世帯を巡回し、その後自力で除排雪できない高齢者宅を個別に除排雪するという状況である。これが2030年頃には過少評価で1人180世帯を2日間で巡回する必要が迫らる。既にこの地域での公的除雪支援は破綻することが予想される。後期高齢者社会を先行する岩見沢市の報告の状況が今後日本国内の降雪地帯全域で発生すると予想される。岩見沢の報告は、他の自治体への警鐘である。

 2030年頃には大変な状況になる事が予想されるが、AI・IoT・スマホがこの状況を救ってくれる。安否確認はスマホなどを利用して既に実施できるため、地方自治体での高齢者のIoT機器の利用率引き上げが今後の地方政策に大きな影響を与えると思う。また、AI・IoT・スマホを利用した色々なインフラへの実践利用が社会インフラ効率の向上に繋がると思っている。

 

 こんな感じの研究背景があって、1人でも村、町単位の除雪を高効率で完結できるような小型除雪排雪装置を提案している。本研究室は、「社会に大事な研究」を行っています。 


排雪する場所が無いから押し固める

 除雪方法は、住む環境で異なる。富山県では、人手や除雪機で雪を集めて、人手やブロワー型除雪機で、広大な農地に雪山を作り、太陽光のエネルギ―による雪融けを待つことで、一般的な除排雪は済むが、少しでも人の集まった集落では、そのような広大な土地が無い。また、冬季期間に太陽光による雪解けが期待できない山間部や新潟県以北の地域、札幌などの都市部住宅街では、集めた雪は人手、建設機械、ブロワー型除雪機を用いてトラックに積載し、排雪搬送する必要がある。 

 大雪が降った場合は、富山県でも交通量の多い幹線道路で一部排雪搬送が行われているが、公共除雪では、除雪機械とオペレーターが慢性的に不足しているため、大雪の排雪作業が完了するまでに数日の交通渋滞・障害が発生している。そのため、慢性的な重機と特殊作業者の不足を補うために、排雪プロセスの効率化について検討を行っており、雪を集め、ブロワーで飛ばし、トラックに載せてから、排雪するプロセスから、雪を集め、固め、隅に並べ、排雪工程を削減することを目的とした機械を開発している。


排雪の押し固め研究の成果

 下図は現状の除雪・排雪システムの問題である。人海戦術型の人手除雪は人手不足で既に作業工程計画が破綻している地域が多くみられるようになってきている。一方、農業小型ショベルを用いた除雪でも排雪工程では除雪が緻密化されていないため一度に多くの雪を搬送することができず排雪効率は良くない。除雪および排雪効率をトータル的に向上させる機械の開発が望まれる。

 既報実験の結果、市販の建設機用のブルドーザーで押付けたとしても除雪は緻密できないことが分かっており、除雪を緻密に圧密して、排雪しない特別な除雪圧密機械を開発している。

現状の除雪・排雪システムの問題
現状の除雪・排雪システムの問題

 下図は提案している除雪圧密機械である。図のような連続押出型の除雪圧密成形装置の他に、従来から自衛隊で使用されている固定式密閉鍛造型の除雪圧密成形機械が北海道の雪まつりで利用されているが、更に低成形力・高速成形できる方法を提案し、その効果を定量的に評価している。現在、自衛隊で使用されている雪まつり用の雪圧密成形機は非常に大型で自律移動ができない。 一方、提案方法では成形圧力を従来の1/16程度に低減できたため、牽引・自律移動が可能な装置が実現できる。

提案している人手および重機除雪緻密化機械
提案している人手および重機除雪緻密化機械

 下図は提案している個人完結型除雪排雪機械である。1人でも除雪・排雪作業ができるような機械を想定している。公的機関の支援で、町内に1台を導入すれば、短時間の内に何件もの家の分の除雪と排雪が行えるようなシステムを想定している。米国で先行している「ボブキャット」や、北海道で活躍している「ボブキャット」および「ジョブサン」にブロワー機能と、特殊圧雪機能が付いた様な装置になる。

 

 装置の動作は、

①「ブロワー型」、または「押し込み型」除雪によって、金型内に除雪を取り込み、

②その後密閉状態にして除雪圧密成形を実施し、

③排雪圧縮固化体を好きな方向に吐出するような機能を持つ除雪機を想定している。

 

 除雪圧密体は、トラックに載せて搬送したり、路肩や空き地にそのまま積み上げ保管するなど、色々な排雪方法が創出できる様な機械を開発したいと思っている。既に「ゆき太郎」というAI搭載の自動圧密成形装置が日本国内で開発されているが、提案する装置は人間が操作し、機械が協調動作する仕組みとなっている。 

提案している個人完結型除雪排雪機械
提案している個人完結型除雪排雪機械

  研究の結果、様々な知見が新たに得られてきた。従来のバッチ式の除雪圧縮装置ではなく、バッチ式と連続押出式のハイブリッド化した成形プロセスを提案している。

 下図は2013年に富山県イノベーション創出事業(不採択:代表研究者)および富山県新世紀機構助成(採択:ただし共同企業代表者)に申請した時の提案機械の未来予想図である。高専教育下で学生と共に切磋琢磨しながら研究を進め、研究が深化・高度化するにつれて、申請の想定通り、金型形状と複動ダイスのモーションコントロールを行えば、10トン程度の押付け力があれば除雪を連続高速圧密可能であることが分かってきた。この成形荷重は、自衛隊納品の既存の除雪圧縮装置の1/80~1/160程度であり、提案する装置は軽量可が可能で、軽トラックの荷台に乗せたり牽引も可能である。 

 

※ 提案する除雪圧密成形装置はだれもが模造可能です。意力のある方は既報論文を取り寄せて、その趣旨に従い、製造販売していただけると、広範囲の地域で個人排雪に困っている人が助かります。よろしくお願いします。ただし、確りと安全性能の確認をお願いします。 やってはいけない除雪圧密条件によっては、成形圧の7倍以上の側面圧力が発生して、鋼製の圧力容器が簡単に破裂します。それだけは注意をお願いします。


全部手作り実験装置

 下記の図は、研究室で開発試作した除雪高速圧密成形模擬金型の一例である。多点側面背圧センサーと、軸方向成形圧力センサーによって、除雪圧密時の任意位置、任意時間における、平均垂直応力、von Mises応力、偏差応力、応力緩和の評価を実施している。除雪は非線形の緻密変形であり、連続体でないし、体積も減少するため取り扱いが難しい。

 その様な事を当初から、日本国内の先輩研究者らは想定していたものの、結果の取り扱いを簡単にするため、ガスや流体の様な等方変形としてザックリ近似してきた経緯がある。研究を続けてきて、除雪圧密容器が簡単に破裂することから、等方変形での取り扱いに限界がある事から、多点側面背圧測定を行い、側面背圧÷成形圧力=静止土圧係数を求めてきた。既存の測定装置では実施できない研究のため、実験装置はすべて手作りであり、非常に経費と時間が掛かる。 

除雪高速圧密成形金型 (軸法成形圧力、金型側面背圧、成形パンチの位置が自動計測される。)
除雪高速圧密成形金型 (軸法成形圧力、金型側面背圧、成形パンチの位置が自動計測される。)
金型側面に発生する圧力の測定装置製作風景
金型側面に発生する圧力の測定装置製作風景

スイス近辺の豪雪地帯の研究は世界一

  同様の研究は現在フランス、アメリカ(NASA)、スイスなどの国立研究所で行われ始めている。研究者の数、研究論文の数からみても、スイスを中心とした研究グループが世界の中心と思われる。が、除雪の密閉金型での圧密に関する研究は自然現象として余り見られないため、研究対象として除外されており、研究自体が余り実施されておらず、殆ど文献資料がない。

 日本国では、既に雪まつり用の除雪圧密体の成形を目的とした圧密成形機械(三菱重工業、日本製鋼など)が少量販売されているが、非常に大がかりな装置で、8.0MPaの成形軸方向圧力を必要とし、装置自体も7m幅、重量10tonもあり牽引移動が難しく、住宅街の除雪排雪作業を支援するには向いていない。また、自然科学の研究として、Maenoら( Maeno, N. and Ebinuma, T.: Pressure sintering of ice and its implication to the densification of snow at polar glaciers and ice sheets, The Journal Physical Chemistry, 87 (1983), 4103–4110. )は、南極の降雪の圧密成形を実験室で模擬実験し、0.5MPa程度の軸方向成形圧力で除雪を氷にすることを報告しているが、やはり等方変形を仮定した研究成果に留まっており、機械による人工的な除雪圧密成形への応用は実施されていない。


圧密金型形状で大きく除雪圧密特性が変わるから困っています

 新たな知見として除雪の圧密成形特性は、成形ひずみ速度、金型寸法比率または除雪圧密材の寸法によって変わることが確認できた。また、動的に衝撃力を加えた場合と、準静的荷重で圧密成形した場合で、圧密成形特性が異なることが分かってきた。

 五里霧中で色々な除雪圧密試験を行っている中で、事態が一変する連絡があった。除雪圧密時において圧密成形中の背圧が振動したり、除雪圧密体の密度不均一に発生している現象を追調査していたところ、2021年の3月に小職の既報論文を読んだ、英国のエディンバラ大学と独逸国のフリードリヒ・アレクサンダー大学の合同研究チームから、この除雪圧密中の背圧振動現象や、密度の不均一現象は、雪の自然的な特性である。と論文付きの連絡を受けた(Thomas W. Barraclough, Jane R. Blackford, Stefan Liebenstein, Stefan Sandfeld, Tim J. Stratford, Gerhard Weinländer and Michael Zaiser: Propagating compaction bands in confined compression of snow, Nature Physics, p272-275 (2016))。準静的、動的どちらの状況でも衝撃波が材料内部を伝播するが、雪という材料は局所的にひずみ軟化する特性を持っており、圧縮過程で不均一に応力が振動する現象を示したり、変形および密度が一様とならない。ということが2016年以前に分かっていることを教授してもらった。

 教授して頂いた論文では、AI画像処理による特徴ベクトルを用いたテンプレートマッチグによる平面ひずみ圧密実験時の不均一ひずみ測定の結果と、波動方程式の波紋に関する数値シミュレーションの結果の比較が示されている。 


ビッグデータ解析を必須の研究へ進化

 国際研究グループによれば、金型内を応力波が伝播する過程で強度が強め合った場所で、雪の圧縮崩壊が発生することが指摘されている。X線CT画像による崩壊部の定量評価画像と、高い強度を示す応力波の波紋の比較がイギリス国を中心に、イギリス、ドイツの国際研究グループで実施されている。

 人工知能を用いた画像ビッグデータ解析が除雪圧密研究を進める上でキーポイントとなる事が分かった。残念ながら、日本国内では除雪圧密変形過程のビデオデータに対してビッグデータ解析を実施し、変形を定量評価したような研究は実施されていなかった。

 そこで、英国の後追い研究ではあるが、本研究室でも除雪の圧密変形途中のひずみを定量評価するために、Pythonによる汎用画像解析ライブラリを用いた画像相関法・DICプログラムを作成した。また、圧密過程の可視観察を可能にするために、冷温恒温室で4K画像解析ができる装置一式を開発し、ひずみ解析の定量評価を開始した(上田2022、3月)。

 下の図は、低温恒温室-19℃において除雪を圧縮した実験映像である。4K画像で撮影されており、横4608×縦3456pixel、60fpsのビデオ動画に対して、標準ライブラリを組み合わせた研究室独自のDICプログラムを作成した。なお、このプログラムは本校卒業論文で公開されている(2022年3月M5上田)。興味のある方は取り寄せ利用してもらいたい。計算にはノートPCを用いた。計算スペックはCPU:4.2GHz、メモリ16GBで、5秒の動画に対して15分程度の計算を要した。

 

 実験では上移動圧盤が降下して除雪を圧密成形する。下圧盤および側面金型は静止したままである。122㎜高さの除雪をおよそ5㎜/sの一定速度で0.5MPaになるまで機械プレスした。受圧盤は30㎜×100㎜、受圧面積3000㎜^2となっている。ひずみ速度は5.00×10^-2/s以上であり、自然圧密の1000倍以上の速度で除雪が高速圧密された。本研究では、このような人工的に高速除雪圧密される変形を人工除雪圧密と呼んでいる。初期除雪密度は0.200g/㎝^3として、最終的に0.651g/㎝^3まで圧密された。

除雪の圧密変形過程 4Kビデオ動画の1コマ (2022,Feb,上田)
除雪の圧密変形過程 4Kビデオ動画の1コマ (2022,Feb,上田)

 除雪圧密成形中のひずみ増分を下図に示す。ビデオ動画の1フレーム毎のひずみ分布を評価している。上部移動圧盤に接している部分がひずみ変形を強く受けている。固定圧盤の下部は殆どひずみを受けない。除雪の体積が減少し、密度が向上している。明らかに局所変形を起こしており、海外研究者の報告の再現性を確認した。

除雪の圧密変形過程におけるひずみ増分分布 (2022,Feb,上田)
除雪の圧密変形過程におけるひずみ増分分布 (2022,Feb,上田)

 除雪圧密成形過程では、変形中は、ほぼ上述の上圧盤の接触部近傍のみが変形が進むが、時折不規則に下図に示すような全体がひずむ場合観測された。局所的に変形したり、全体に変形が伝播したりと、刻々に変形ひずみが変化していく様子が確認された。これも海外研究者の報告結果を再現することができた。

除雪の圧密変形過程におけるひずみ増分分布  δt=0.133 [sec] (2022,Feb,上田)
除雪の圧密変形過程におけるひずみ増分分布  δt=0.133 [sec] (2022,Feb,上田)

 近年の高機能パソコンと世界に跨るオープンソースソフトウェアの普及によって、20年前の日本の国力では発見できなかった現象を見つけることができた。雪氷、雪工学会の分野では数十年ぶりの進歩だと思うけどね。理由は分からないけど、あまり評価されてない。

  X線CTという装置を用いると材料内部も可視化できて、内部情報をも評価できるのだけど、「測定観察装置部にドライアイスを入れても良いよ!」という研究機関が無くて困っている。レンタル会社も内部が汚染される研究の様なので、装置が測定後廃棄処分になるのでレンタルできない。という状況で、研究が停止している状況である。

 海外の研究者は高画素光速度カメラを用いて応力が伝播する様子も可視化している。本研究室の4K、60Hzのカメラでは画素は十分なものの、サンプリング速度が遅く簡易な応力伝播しか評価しきれていない。もう少し高速なカメラで測定したいところだが、カメラを-19℃の雰囲気に入れるため、やはりこれもレンタルした機材が廃棄処分になるため貸し出ししてもらえない。

 

 現在、応力解析とひずみ解析の両方を考慮して除雪圧密過程を評価している。 現在調査している応力指標を下に示す。 

 

 将来構想として除雪圧密体の密度毎の変形抵抗の定量評価として、JISに沿った測定装置を作成し、モール・クーロンの破壊規準を測定評価する予定である。金属物質で構成される連続体は、ミーゼス応力が有効応力として変形抵抗応力として利用されているが、土砂の場合、変形抵抗が静水圧応力の影響を大きく受けるため、モール・クーロンの破壊規準を測定評価する必要がある。(力学的に言えば、金属連続体は、楕円柱の領域で示されるミーゼス規準の変形抵抗を示すが、土砂などの不連続体は、角の丸まった三角錐の領域で示されるモール・クーロン規準、松岡・中井規準の変形抵抗を示すことが知られている。)

 論文検索によると、日本国における除雪のモール・クーロン規準の方向は少数報告されているが、本研究室の対象としている人工除雪圧密体のモール・クーロン規準の評価は行われておらず研究の実施する意味がある。  そのため、現在までの研究をまとめるため、N=30回の試験による統計的な圧密特性の調査を実施している。また、圧力計が消耗したので、新たに圧力容器および圧力計を備えた実験装置を製作中である。

 


本研究に関する謝辞

 英国のエディンバラ大学と独逸国のフリードリヒ・アレクサンダー大学の合同研究チームには、積雪圧密過程が不均質圧密過程である事を論文参照を用いて指摘を受けた。この指摘に感謝します。

 

 ノルウェー科学技術大学からは、DICプログラムおよび原理の説明書を提供いただいた。ここに感謝します。

 

 本研究室では、ノルウェー技術科学大学から提供された画像相関法に関するアルゴリズムを参考に、OpenCVに無償搭載のAKAZEを用いた画像相関法を用いたAIプログラムを独自に開発した。また、卒業研究の結果としてプログラムコードを全て公開している。興味のある企業・個人は、富山高等専門学校 図書館に問い合わせをお願いします。

 


参考サイト

内閣府ホームページ、https://www.cao.go.jp/

国土交通省ホームページ、https://www.mlit.go.jp/

防災科学技術研究所ホームページ、https://www.bosai.go.jp

富山県庁ホームページ、www.pref.toyama.jp

富山市ホームページ、https://www.city.toyama.toyama.jp/index.html

気象庁 アメダス、http://www.jma.go.jp/jp/amedas/

世界の雨分布速報、https://sharaku.eorc.jaxa.jp/GSMaP/index_j.htm

雪おろシグナル、https://gisapps.bosai.go.jp/seppyo/snow-weight-niigata/

寒気天気図 海快晴、https://www.umikaisei.jp/weather/weatherforecast/cold/


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